2014年に水循環基本計画が策定されて以来、日本では水に関する課題への理解促進と持続可能な水管理の推進を目的として、「水の日」をはじめとする普及啓発活動が進められています。また、流域全体で共有される水課題に対応するため、官民連携を通じた取り組みも積極的に推進されています。
2025年の「水の日」に、AWSはJapan Water Stewardship Leadership Group(JWS)と連携し、「Japan Water Stewardship Forum」を開催しました。同フォーラムでは、内閣官房 水循環政策本部事務局参事官補佐 田中 陽三 氏をお招きし、日本の水循環政策の最新動向や、企業との連携に関する今後の展望について基調講演を行っていただきました。
このたびAWSでは、田中氏にあらためてインタビューを行い、最新の政策動向や今後の重点課題に加え、ウォーター・スチュワードシップの推進や流域における協働的な水管理において、政府が企業に期待する役割について話を伺いました。
水に関する課題は行政のみで解決できるものではなく、持続可能な水の未来の実現には、流域に関わる企業、地域住民、行政など多様な主体の連携が不可欠です。 企業には、自社の活動における責任ある水資源管理に加え、流域全体の健全性やレジリエンスの向上に向けた取り組みに積極的に参画いただくことを期待しています。
- 田中 陽三 氏 (内閣官房 水循環政策本部事務局参事官補佐/現 国土交通省 水管理・国土保全局 水資源部 水資源計画課 総合土砂企画官)
国土交通省のお立場から見て、なぜ流域管理やウォーター・スチュワードシップの取り組みに民間企業の参画が重要なのでしょうか。また、統合的な流域管理の実現に向けて、民間企業にはどのような役割を期待していますか。
まず日本の水管理を取り巻く課題についてご説明したいと思います。改定された水循環基本計画では、気候変動に伴う渇水や洪水リスクの増加、老朽化する水インフラ、地下水の保全・利用、生態系への影響など、さまざまな重要課題が挙げられています。これらの課題の多くは行政区域を越えて流域全体に及ぶため、解決には行政、企業、地域社会をはじめとする多様な主体の連携が不可欠です。
このため、水循環基本計画では、地域や分野の垣根を越えた連携を促進する「流域マネジメント(総合的・一体的な流域管理)」を推進しています。この考え方は、農業、生活、工業など多様な用途で水資源を共有している日本において特に重要です。日本の水利用量の内訳は、おおよそ農業用水が70%、生活用水が20%、工業用水が10%となっており、限られた水資源を持続的に活用するためには、すべての利用者が連携して取り組む必要があります。
このような背景のもと、ウォーター・スチュワードシップは、関係者が協働して課題解決に取り組むための有効な枠組みであると考えています。企業にはまず自社操業において責任ある水資源管理を実践していただくことが重要ですが、それに加え、地方自治体や地域住民、その他の関係者との連携を通じて、流域全体の課題解決にも貢献していただくことを期待しています。
具体的には、企業による森林保全活動、地下水涵養、雨水の浸透・貯留、洪水対策、水辺環境の保全などが挙げられます。また、近年は一部地域で取水制限を伴う深刻な渇水も発生していることから、雨水利用や再生水利用、省水技術の導入といった取り組みにも大きな期待を寄せています。
こうした取り組みは、流域のレジリエンス向上や持続可能な水資源管理につながります。同時に、水の重要性に対する国民の理解を深めることも重要であり、「水の日」や「水の週間」はそのための貴重な機会となっています。
出典:国土交通省
改定された水循環基本計画および「水循環企業登録・認証制度」に関する最近の動向について教えてください。
2024年8月に水循環基本計画が改定され、それに基づき全国でさまざまな施策が推進されています。その中でも重点施策の一つが、健全な水循環の維持・回復に向けた「流域マネジメント」の推進です。その取り組みの一環として、地域では「流域水循環計画」の策定が進められており、2026年3月時点で全国85地域において計画が策定されています。また、水循環政策本部事務局では、専門家派遣などを通じて自治体による取り組みを支援しています。
さらに、2024年度に開始された「水循環企業登録・認証制度」は、持続可能な水資源管理に貢献する企業を評価するとともに、企業間の連携や取り組みの見える化を促進することを目的としています。登録・認証企業数は着実に増加しており、2024年度の99社から2025年度には148社へと拡大しました。
現在は制度のさらなる発展に向けた検討も進めています。有識者による検討会において、自社の事業活動の枠を超え、流域全体の持続可能性向上に貢献する先進的かつ継続的な取り組みを評価する新たな認証区分の導入について議論を進めています。
水循環企業登録・認証制度の開始以降、参加企業にはどのような進展が見られますか。
制度導入後の前向きな変化の一つとして、認証企業同士の連携が広がっていることが挙げられます。その後押しとして開催しているのが「水循環企業連携フェア」です。このフェアでは、さまざまな業種の企業が集まり、知見や経験を共有するとともに、新たな連携の機会を創出しています。
当日は、有識者による講演や先進的な取り組みを進める認証企業の事例紹介が行われ、多くの参加者から「自社の取り組みをさらに発展させるきっかけになった」といった声をいただいています。
また、この水循環企業連携フェアは、流域ごとの課題や地域での実践事例を共有する場としても重要な役割を果たしています。今後もこうした交流の機会を充実させ、企業間の連携をさらに促進していきたいと考えています。
出典:内閣官房水循環政策本部事務局
ウォーター・スチュワードシップへの企業の参画をさらに広げていく上で、どのような課題があるとお考えですか。
大きな課題の一つは、参加する企業の多様性です。大企業は比較的多くのリソースを有しているため、幅広い取り組みを実施しやすい傾向があります。一方で、中小企業であっても、地域に根差した活動を通じて流域や地域社会に大きく貢献しているケースも少なくありません。そのため、企業規模だけでなく、地域社会や流域に対して実際にどのような価値を生み出しているかを適切に評価し、多様な取り組みを公平に認識できる認証・評価の仕組みを構築していくことが重要な課題であると考えています。
日本における企業のウォーター・スチュワードシップや流域レベルでの分野横断的な連携の強化に向けて、AWSにはどのような役割が期待できるとお考えですか。
民間企業の役割については先ほど申し上げたとおりですが、AWSをはじめとする国際的なウォーター・スチュワードシップの枠組みには、国内外の知見の共有や関係者間の対話を促進し、企業、行政、地域社会などによる流域レベルでの協働を後押しする役割が期待されると考えています。